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はじのん’ずBar

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ギロロの日々

ギロロの日々Y


「ご免ギロロ、ちょっと背中掻いてくれない?」
「この辺か?ちょっと赤くなってるぞ」
「やだ!薬渡すから塗っておいて」

ボケガエルたちの悪だくみで、右手をギロロにされちゃって、それでもギロロと力をあわせてソフトボールの試合に勝てた日。
でも、こうしてるとなんか、意外と慣れてきちゃった。慣れてきたらそれはそれで便利なのよね。指先に目があると。
もともと、ボケガエルたちの中でもまともに話ができるのはギロロだけだったし。
こうして側にいても一所懸命紳士として振舞おうとしてるのが判るから……。

結局その日は、冬樹のシャツにボケガエルが張り付いただけで、あたしの手からギロロが外れることはなかった。

「ねえギロロ、お風呂、入るわよ」
今日は体育の授業で熱闘ソフトボール。本当だったら帰ってきてから速攻でお風呂しちゃいたかったけど。
「な、夏美、今度はグルグル巻きにしないのか?」
「もういいわよ、それに、巻いちゃったらボディスポンジ持てないじゃない」
「せ、せめて目隠しはさせてくれぇ」
「ひっど~い、あたしの体なんて、見れたものじゃないって言うの?ニヤニヤ」
「ち、ちがうそうじゃなくてお前の体なんか見たら……オレはオレはオレは……んが~~っ!!!」

なんか、指先……じゃなくてギロ先から湯気が出てるけど……。

かぽーーーんっっ
「ほら、しっかりスポンジ持ってよ」
「はが~~」
「ごしごし、ごしごし、綺麗になあれ、綺麗になあれ……
 また少し大きくなっちゃったみたい。ああもう、ママみたいになっちゃったら大変だな~」
「大きく……ママみたいに……それにこのスポンジ越しの弾力は……はがぁぁぁぁ!!!」
「ボディソープ、温熱タイプに変えたんだっけ?洗ったところがポカポカする。それにいつもよりぬるぬるするなあ」

みると、スポンジ、いや、右手のギロロは鼻血を噴いて、あたしはその鼻血を体に塗りこめていた
「ちょっとやだ、ギロロ、そんなに血噴いて大丈夫なのっ!?」
「……オレは赤い悪魔……赤い悪魔……戦場では一瞬の油断が命取り……本当の敵は弱い自分……」
「ちょっとギロロ、ギロロってばしっかりしてよぉ」

…………

オレが気が付くと、そこはベッドの中だった。

「ここはどこだ?」

上を見る……暗い天井。右を見る……カーテンのかかった窓。左を見る……甘い寝息を立てて眠る夏美……

夏美イィィィ!?

冷静になれオレ。戦場ではあわてるヤツから落伍していくんだ。落ち着けオレ、どうせ夢か妄想だ……。
「う~ん、ギロロぉ、そんなに鼻血出してだいじょぶなのぉ……?」

寝ぼけた夏美の声。妄想なんかじゃない、本物の夏美が、吐息がかかるほどそばに……うう、何が起こってるんだ??!!
思いっきり深呼吸を繰り返して、ようやく今日の出来事がよみがえってきた。タフさが自慢のオレでもさすがに相当の出血でやられてしまっていたらしい。
自分はと見れば、ちゃんとハンカチ数枚重ねの布団をかけられて、夏美の側に寝かされていた

「看病してくれたんだな、夏美」
「う~~ん、今日はギロロ、頑張ってくれたからね……」
「ナ、夏美、おきてるのか!?」
「う~ん、はんぺん、ちゃんと加熱しないとだめよ……」

ね、寝言か。驚かせるなまったく。
しかし、オレを手につけられるような目にあってるのに、夏美は……
加害者であるオレが言うのもなんだが、夏美はすごいヤツだ。こんな目に遭わされても明るさをなくさない。
そんな夏美が、オレは、オレは……

「……だめよギロロ、そんなかわいいお友達がいるんじゃない……」

何の夢を見てるんだ??

「いいか夏美、オレは、お前だけだ」

珍しく茹だることなくオレがそう告げると、なぜか夏美はにっこりと微笑んだ。そして、そして……

 おしゃぶりするかのように右手親指、つまりオレの手を『ちゅっ』っと唇に含んだ。

『はがぁぁぁぁぁ…………っ!!』


「う~ん、おはよ、ギロロ……ってギロロっ?」

翌朝、夏美ちゃんがその右手に見たものは、憔悴しきってがっくりとうなだれるギロロ伍長の姿でした。
なぜかその左手は一晩中お風呂にでも入っていたかのようにふやけていましたとさ。


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